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東京地方裁判所 昭和60年(行ク)99号 決定

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

申立人

(被告) 国税不服審判所長

林信一

広島県福山市三吉町四丁目四番八号

(同) 福山税務署長

三浦昭二

右両名指定代理人

川野辺充子

星川照

広島県深安郡神辺町大字川南四六八番地の一

相手方

(原告) 株式会社サンエス

右代表者代表取締役

佐藤敬治

右訴訟代理人弁護士

武田清一

主文

本件を広島地方裁判所に移送する。

理由

一  申立ての趣旨及び理由

申立人らは主文と同旨の決定を求め、その理由として次のとおり述べた。

1  本件取消請求の対象とされる更正等の処分及び裁決に係る事件の調査及び審理に関与した者、関係証人、その他の証拠方法はすべて広島地方裁判所管内に存し、相手方も同管内に所在する。

2  本件を本訴が提起された東京地方裁判所で審理すると、指定代理人の事実調査のみならず、審理について著しい支障又は遅滞が生ずるが、本件を管轄の競合する広島地方裁判所に移送することにより右弊害を避けることができる。

二  相手方の答弁

相手方は本件移送の申立ての却下を求め、その理由として次のとおり述べた。

1  本件が広島地方裁判所に移送されると、相手方代理人は審理の都度広島に出張せざるを得ず、それこそ、訴訟遅延の原因になり、また、旅費、日当等、相手方の費用負担が増大する。東京地方裁判所において指定済みの第一回口頭弁論期日が延期されるのも確実である。

2  本件を東京地方裁判所で審理する場合、広島県在住の国税職員が上京することとなり、そのために若干の時間と費用を要するとしても、国がその程度の負担を負うのは当然であるから、民訴法三一条にいう「著キ損害又ハ遅滞」はない。

3  本件訴訟の主たる争点は、行為・計算の否認規定の解釈にあり、相手方は税法専門家を鑑定証人として申請する必要があると考えているが、これらの専門家は東京在住者が多い。右規定の沿革的・比較法的調査も東京の方が便利である。

4  事実についての争点の立証も人証及び書証で十分である。課税処分取消請求訴訟において、通常被告側申請の証人は少なく、相手方としては進んで東京地方裁判所に訴えを提起した以上、人証については配慮済みである。

三  当裁判所の判断

1  本件訴状によれば、相手方は、本件申立人国税不服審判所長の裁決に関しては、その裁決の遅延、担当審判官の指定及び併合手続の違法を主張するにとどまるが、申立人福山税務署長の更正等の処分に関しては、主として、相手方が吸収合併したサン電子株式会社(旧商号「サン電工株式会社」、以下「サン電工」という。)による繰越し欠損金の損金算入について、その以前にサン電工が吸収合併したサン電子株式会社(以下、「旧サン電子」という。)が法人所得に対する課税を回避するため、いわゆる「逆合併」をしたものとして右申立人が右損金算入を法人税法一三二条により否認したことの違法を主張するものである。

そして、本件記録によれば、相手方及びその関係する同族会社はすべて広島地方に存在し、申立人福山税務署長のみならず、本件の審査請求である広裁(法)五九第四七号事件を調査、審理、議決した担当審判官等もすべて広島地方に存住することが認められる。

2  以上の事実によれば、本件の審理の中心は、いわゆる「逆合併」については、合併の目的とその経緯、関係する同族会社及び株主等の債権債務関係、資産及び事業の状況等についての事実関係の解明にあり、裁決の瑕疵については、右審査請求事件の調査、審理の経緯の事実関係の解明にあると予想されるところ、原告も訴状で自陳するとおり、右各事実についての立証責任は申立人らに帰属せしめられるところが大半と解される。そして、右の争点に関係する証人はすべて広島地方に在住するのであるから、長期的視野で考察すれば、本件を東京地方裁判所において審理することは、かえって訴訟を著しく遅延させるものと認められる。そして右の判断は申立人らが国の機関であることを考慮しても左右されるものではない。

なるほど、本件を広島地方裁判所に移送した場合に、相手方代理人が引き続き本件に関与することによって相手方にある程度の旅費、日当等の負担が増加することは推測できるが、相手方の負担しえない額のものとは考えられないし、訴訟費用は最後に勝訴者が回収できるものであり、訴訟の著しい遅延を敢えて許してまで移送しないことを相当とする理由とはならない。

相手方の主張する法律解釈の為の鑑定等は、その要否が必ずしも明らかではないし、仮に採用するとしても、それが本件移送を許さない事由とはならない。

3  以上のとおり、本件は著しい遅滞を避ける為、広島地方裁判所に移送するのが相当と認められるので、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本和敏 裁判官 太田幸夫 裁判官 大島隆明)

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